野沢温泉蒸留所がセレクトした特別な”ボタニカル” 【長野県木島平村】瑞穂木材のシダー(杉)
野沢温泉村の湧き水は、雪や雨がブナの木々や土壌にしみ込み、50年もの歳月をかけて地中を旅し、やがて温泉や湧き水として私たちの元にたどり着きます。
幾層にも重なる土壌によって磨かれた湧き水は、舌触りが驚くほど滑らかで、ジンの蒸留に欠かせない存在です。
そして、この水と同じくらい大切なのが、蒸留責任者サムが一つ一つ丁寧にセレクトした“日本を感じる”ボタニカル。
生産者や販売元の顔が見え、こだわりと信頼が込められたボタニカルは、野沢温泉蒸留所のジンに欠かせない大切なパーツです。
地元木材を使ったボタニカル
(▲写真:実際にボタニカルとして使用されている杉の葉や削りカス)
野沢温泉蒸留所の店舗は2022年に地元の缶詰工場をリノベーションして完成しました。
この店舗に使用されている木材の多くは野沢温泉村の隣、木島平村で70年にわたって製材業を続けている瑞穂木材株式会社により加工された木材です。
もともと、杉の木をボタニカルにすることを検討し、テストを繰り返していた蒸留責任者のサムは、加工された際に出る”木材の削りカス”に着目。
木材の加工時に出る「皮」や「チップ」、「かんなくず」や「おが紛」をボタニカルに起用することを検討し始めました。
テストを繰り返す中で、サムが選んだのは「かんなくず」でした。
かんなくずは、薄く表面積が多いためアルコールが香りや風味の成分にアクセスしやすいのが特徴です。
サムは当時を振り返り、『実際にNOZAWA GINが完成した時には、村の風景である山々や森林をイメージするだけでなく、松や木の香りを存分に加えてくれる存在となりました。』と語ってくれました。
「木材をすべて使い倒す」杉の香りの商品開発
(▲写真:瑞穂木材株式会社が販売する杉のエッセンシャルオイル)
廃材を提供していただいている瑞穂木材(株)でも、杉の香りを利用した製品の開発に取り組んでいます。
材木屋さんがなぜ?と思いお話を伺うと、宮崎社長は「社員のみんなに部活と称して木材の新しい活用方法を生み出してもらっているんです」と嬉しそうに語ってくれました。
杉の香りを活かした製品のひとつが、杉のエッセンシャルオイルです。
このエッセンシャルオイルは、NOZAWA GINで香る「杉」よりも濃度の高い香りを感じることができ、すっきりとした中に森林の深みを感じることができます。
杉のエッセンシャルオイルは、杉の木を伐採するときに本来であれば山に残置してくる利用不可能な木材を活用。
持ち帰った枝葉を枝と葉にそれぞれ分けて粉砕し、適正な配合で混ぜ合わせたあと、ドラム缶で作成したお手製の水蒸気蒸留器でオイルを蒸留しています。
そして、この蒸留には木材乾燥用の乾燥機に使われているバイオマスボイラー(木屑炊きボイラー)の水蒸気を利用しているそう。
蒸留という共通の手法を通して、蒸留酒とエッセンシャルオイルのどちらも、素材の個性や香りを最大限に引き出している点が印象的でした。
また、すべての工程で「木材をすべて使い倒す」というコンセプトに当てはまっていることに驚かされました。
瑞穂木材(株)の部活動では、エッセンシャルオイルのほか、スノーボードや子ども向けの木製玩具などさまざまなアイデアが生まれており、自由な発想で取り組んでいます。
面白い取り組みをしている会社であると同時に、「木材王になる」という大きな夢を抱く宮崎社長の『木育』のお話も気になるところ。
詳しくは、瑞穂木材のInstagramをご覧ください!
木材の利用
「杉の木」と聞くとつい花粉を連想してしまいますが、杉の木が多く植えられ、活用できているのは、70年前の戦後に先人たちが未来の私たちのために植え、育ててくれたからです。
木材は、植えてから30~50年経たないと建築材として活用できるまでに成長しません。そのため、今新たに植え、育てることが重要です。
しかし現状は、木を植えるスペースが足りておらず、このままでは未来に十分な木材を届けることができなくなってしまいます。
「先人の想いが詰まった、今ある木をもっと切って使っていかなければ、この話は進みません」と瑞穂木材株式会社の宮崎社長は教えてくれました。
野沢温泉蒸留所は村内に流れる「水」、瑞穂木材株式会社は近隣エリアの「木」という地域の資源を活用し、循環させる大きな役割を担っています。
今後も共に意見を交換しながら、地元を盛り上げる取り組みを続けていきます。
瑞穂木材株式会社
所在地:長野県下高井郡木島平村
HP:https://mizuhomokuzai.jp/
取材協力:代表取締役社長 宮崎淳貴