【第1回】野沢温泉蒸留所が目指すウイスキー造り──ブライオニー・ホアが語る土地の魅力

この秋、野沢温泉蒸留所初のシングルモルトウイスキーがいよいよ発売を迎えます。

その節目にあわせて、開発に込めた哲学やものづくりの背景を紐解く全4回のインタビューをお届けします。

今回お話を伺ったのは、世界各地で約30年にわたりワイン造りに携わってきたワインメーカー、ブライオニー・ホアさん。現在は南オーストラリア州マクラーレン・ヴェイルで自身のワイナリーを営む一方、野沢温泉蒸留所のアドバイザーとして、ジンやシングルモルトウイスキーの開発にも携わっています。
ワイン造りにおいて「土地の個性」を何より大切にしてきたブライオニーさん。そんな彼女が野沢温泉で感じた“センス・オブ・プレイス(Sense of Place)”とは何だったのでしょうか。

全4回のインタビューでは、野沢温泉村との出会いから、ウイスキー造りに込める哲学、そして野沢温泉蒸留所が描く未来までをじっくりと伺います。

第一回となる今回は、ブライオニーさんのこれまでの歩みと、野沢温泉とのつながりについてお届けします。

自己紹介とワインメーカーとしての歩み

ブライオニー・ホアさん

 

編集部:自己紹介と、これまでの経歴、そして野沢温泉蒸留所で働くことになったきっかけを教えていただけますか?

私の名前はブライオニー・ホア(Briony Hoare)です。

本職はワインメーカー(醸造家)で、これまで30年近く、オーストラリア各地や、少し海外にも渡ってイタリアなどでワイン造りをしてきました。イタリアでの経験は本当に楽しかったですね。

ここ21年間は、夫のトニーと一緒に自分たちのブランドを手がけています。南オーストラリア州のマクラーレン・ヴェイルという場所で、本当に小さな規模で生産していて、そこに家を構えて家族を育ててきました。

野沢温泉との出会い

実は、オーナーのデイビッドとはとても長い付き合いなんです。

トニーも私も、かれこれ25年来の友人です。数年前、彼が「日本に来て、野沢温泉に遊びに来ないかい?」と誘ってくれたので、家族を連れて行ってみたところ、本当に素晴らしい時間を過ごすことができました。スノーシーズン(冬の間)に滞在したのですが、すっかり気に入ってしまい、翌年も、そしてその次の年もまた戻ってきたんです。

本当に楽しかったですね。野沢温泉には、言葉ではうまく表せない「特別な雰囲気や空気感(センス・オブ・プレイス)」があるんです。

野沢温泉蒸留所に参加したきっかけ

2018年か2019年頃だったと思います。

以前、日本酒を酌み交わしながら「いつか蒸留所か何かをやれたら楽しいよね」という話をしていたのを覚えていたデイビッドから、電話がかかってきました。「ブライオニー、蒸留やアルコール造りについて何か知っているかい?」と聞かれたので、「かなり知っているし、経験もたくさんあるよ」と答えました。

すると彼は、「町の缶詰工場だった建物を買い取ったから、ここで蒸留所を建てようと思うんだ。一緒にやらないかい?」と言ってくれたんです。

私は「ええ、もちろん!」と即答しました。そんなわけで、私は立ち上げの最初期から関わっています。

ブライオニー・ホアさん

私の役割としては、ワイン造りや蒸留といった「お酒造りの生産技術」を提供することですが、同時に「パレット(味覚や嗅覚)」をもたらすことでもあると思っています。

それが私の、野沢温泉蒸留所への最大の貢献だと感じています。「どんなお酒に仕上げたいか」を頭の中で思い描く作業は、本当にエキサイティングな仕事です。

ブレンディングを行うときは、それを飲む人、予算、そして価格設定をどうするかを考えなければなりません。「毎晩気軽に飲めるもの」にしたいのか、それとも「特別な日にだけ飲むようなもの」にしたいのか。それによって、アプローチは180度変わります。

どんなお酒を造るにしても、ウイスキーであれ、ジンであれ、ワインであれ、常に「ターゲット(誰に届けるか)」を意識することが最も大切なのです。

 

「土地の個性」を活かしたジンづくり

NOZAWA GIN


編集部:野沢温泉という場所が、ジン、そしてこれからリリースされるウイスキー造りにおいて、これほど特別なのはなぜでしょうか?

面白いことに、ここには特別な要素がたくさんあります。

ジンの観点から言えば、やはり地元で収穫できるボタニカル(植物素材)の存在ですね。私にとって、それはまるで「山を登る旅」のようなものです。まずは麓の果樹園の果物から始まりますが、それをジンにどう活かすかを考えるだけでワクワクします。それらをこの地元で直接調達できるというのは、本当に特別なことです。

私は、あの山を上がっていくプロセスが大好きなんです。

今の時期のような夏のシーズンには、村を散策しながら野菜畑を眺め、土から直接「大葉(しそ)」を摘み取ったりします。

あんな光景は他のどこでも見たことがありませんし、本当にユニークで素晴らしい香りがします。そしてさらに山の上へと登りながら、茂みや下草、大自然の土から芽吹くボタニカルを選んでいきます。

体で感じ、香り、味わうことができる、本当に特別なプロセスです。特に「NOZAWA GIN」を飲むと、五感で野沢温泉の山そのものを味わっているような感覚になります。本当に素晴らしいことだと思います。

 

野沢温泉の湧き水がウイスキーにもたらすもの

野沢温泉の湧き水

そしてもう一つ、そのすべてを繋いでいるのが「湧き水」です。

この村に常に流れている水の音は本当に素晴らしく、心を穏やかにしてくれます。村中をせせらぎが流れる様子は、まるで歌のようです。

ここに一生住んでいる人は慣れてしまって気づかないかもしれませんが、私のようにとても乾燥した国から来た人間にとっては、当たり前の光景ではなく、本当に特別なものに感じられます。

この地から湧き出る素晴らしい湧き水をそのままウイスキーやジンに使えるというのは、並大抵のことではありません。信じられないほど贅沢なことです。

坂を少し登れば、源泉から直接その水を飲める環境なんて、本当に素晴らしいですよね。

 

独自製法が生み出す香りのレイヤー

これからウイスキーを造るにあたっても、この水が生産プロセスのあらゆる段階で使用されます。

それによって、ウイスキーにこの「野沢温泉」という土地のDNAがしっかりと刻み込まれると確信しています。

また、この標高の高さや、私たちが取り入れている独自のウイスキー製法は、日本の他の蒸留所とは少し違います。

私たちの蒸留所の設備設計は、麦芽(モルト)の扱い方に非常に多様性を持たせることができるようになっています。

プロセスへの投入方法を変えたり、一部を取り除いたりといった調整が可能です。特別に設計されたフィルターシステムのおかげで、極めて自由度の高いウイスキー造りができています。

さまざまなアプローチができるということは、それだけ「香りの層(レイヤー)」を重ね、より複雑で、奥深く、楽しんでもらえるウイスキーを造ることができるということです。多次元的で、ひとつの味わいにとどまらない、素晴らしい仕上がりになりますよ。


次回予告

次回は、ブライオニー・ホアさんが語る野沢温泉蒸留所ならではのウイスキー造りについて詳しくご紹介します。

ぜひ続編もご覧ください。